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2012年 03月 28日
小学館の漫画雑誌『flowers』に、
『ここではない・どこか』というシリーズタイトルで 数年前から不定期連載されている短編枠を使い、 昨年夏から今年の冬にかけて発表された 福島の原発事故を受けた作品四作と、 書き下し一作が収められた作品集。 最も早く発表された、 福島の小学生の少女を主人公にした作品『なのはな』は、 故郷の喪失と、それでも抱こうとする希望を描く。 痛みと苦しみの中で、細い糸のような希望であっても つないで未来へ向かおうとしていた昨年の夏の思いが、 作品を読むとくっきりと思い出される。 その続編として今年描かれた書き下ろしの 『なのはな − 幻想「銀河鉄道の夜」』は、 津波で亡くなった祖母への追悼を描く。 この作品は、宮沢賢治の有名な『銀河鉄道の夜』と共に、 あまり知られていない『ひかりの素足』を踏まえている。 『ひかりの素足』は、 宗教学者の島薗進が先頃上梓した『日本人の死生観を読む』で、 「東日本大震災の被災者の心を、 そしてこの震災後に生きている私たちの心を支える力を恵む 過去からの贈り物としても読めるかもしれない」(p.3) として挙げている作品でもある。 死に対する本能的な恐怖を、 宗教的なイメージや儀式によってなだめて来た人類の文化の伝統を、 この一年は改めて思う年でもあった。 『なのはな』二作の間に、寓話的な三作、 『プルート夫人』『夜の雨 − ウラノス伯爵』『サロメ20××』。 が収められている。 擬人化された放射性物質は 「人間の欲望の対象となる者」として登場する。 科学の成果・経済の発展・国際情勢、云々、 核についてややこしい話があれこれある中で、 これほどはっきりと「欲望」と結びついて描かれた姿を前に、 「ああ、たしかにそうだった」と、気づかされる。 作品の中で、 芸術や公共や経済を考える大人や、学校がなくなってほしい子どもは、 核を手放すことができない。 キリスト教の預言者「洗礼者ヨハネ」は核物質の封じ込めに貢献するが、 たとえ今封じても、人間の文明が終わった十万年後、彼女は生きている。 種を植えようとし、 救いのイメージで自らを支えようとする思いが、 個人のスケールを越えたものを前に、くじけそうになる。 2030年の原発割合を検討してきた経産省の審議会は、昨日、 震災前の計画である「40%」に対して5%減、現状より10%増の「35%」、 現状維持の「25%」、現状をやや減らした「20%」、 「0%」、「数値を示さない」の、5案を選択肢としてまとめた。 国の「脱原発」への本気度が見える。 原発への賛否を住民投票で表明させてくれるように請求した 原発投票条例案は、昨日の大阪市議会で、 「既に脱原発の方向に進んでいる」として否決された。 次に議会の審議にかかる東京都では、 知事がこの運動を「センチメント」だと評していて、 おそらくこちらも否決されるだろうと思われる。 「既に脱原発の方向に進んでいる」「原発は必要」 トップの意見が全く逆でも、否決するのは一緒。 ここでも虚無感が襲って来るが、 これにのまれないようにしなくてはならない。 『なのはな』 萩尾望都 小学館 2012年3月12日発行。 『日本人の死生観』 島薗進 朝日新聞出版 2012年2月25日発行。
by pippinrose
| 2012-03-28 11:43
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