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2013年 06月 15日
岩波書店創業百年記念フェア、
「読者が選ぶこの一冊」百冊の中に入った本。 この本の評判にはこれまでに何度かふれていたが、 「道徳についてのお説教」かと思っていたことと、 書店で現物を見る機会もなく、読まずに来た。 フェアのおかけで手に取ることができた。 * * * * 1931年の満州事変後、軍国主義が勢力を強め 言論や出版の自由が失われる中で、作家の山本有三が 「少年少女に訴える余地はまだ残っているし、 せめてこの人々には、 偏狭な国粋主義や反動的な思想を越えた、 自由で豊かな文化のあることを、 なんとかしてつたえておかねばならないし、 人類の進歩についての信念を いまのうちに養っておかねばならない」(p.302) と企画した『日本少国民文庫』全十六巻の中の一巻である。 1937年7月、盧溝橋事件の起きた月に出版され、 1941年の日米開戦後には出版できなくなり、戦後再刊される。 昭和初期の東京。 中学生の主人公が学友と家族の生活で出会う出来事を、 叔父や母の助力を得ながら内省して行く。 学校や家庭の描写からはケストナーの『飛ぶ教室』を連想し、 年長者に導かれ先人の業績を叩き台に考えていく姿には、 大江健三郎の『キルプの軍団』を連想した。 巻末には政治学者の丸山眞男による、 「〈君たちはどう生きるか〉をめぐる回想」(1981年) が収められ、理解を深めてくれる。 子供向きに書かれた本でありながら、成人の読書に耐える。 丸山自身が初めてこの書に触れた時には、 大学を卒業し研究者となった二十歳代の青年だったが、 「目からうろこが落ちるような思い」をさせる語句に充ちていたと言う。 また、昭和初期に書かれた本でありながら、主題はまったく古びていない。 たとえばここで描かれている「貧乏」の問題は、丸山の指摘するとおり、 「今日でも世界規模で考えてそのまま生きている」。 格差・貧困・差別・暴力。 それらが問題意識の外にある子供の世界から、 それらを自らの問題とする大人の世界に住み替わる中で、 「どう生きるか」というのは、 当時の少年のみならず、 今日の少年に問われる問いでもあり、 今日の成人に問われる問いでもある。 この話、明日に続きます。
by pippinrose
| 2013-06-15 11:13
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