by pippinrose カテゴリ
以前の記事
2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 more... 最新のコメント
記事ランキング
ブログパーツ
|
2007年 12月 05日
志村ふくみに関する挿話で最も知られているのは、
大岡信が『言葉と力』という文にし、中学教科書に載ったという、桜の話。 粉雪の舞う京都嵯峨小倉山の麓で切られた桜の枝で、 匂い立つような桜色が染まった、という話であるようだ。 九月の台風前に近江で切られた桜では、色に艶が無い。 春を迎えるために花を咲かせる準備をしていた小倉山の桜の精を、 「花を咲かせる前にわたしがいただいてしまったのだ」 と、彼女は観想する。(『桜の匂い』) その後、教科書を読んだこどもたちに要請され、 桜を染めるために、群馬県藤原の中学校を訪れる。 理科教室で、桜の液から引き上げられた糸は、 桜色ならぬ、赤味を帯びた黄色。落胆と共に、 「本当の桜はどんな色ですか」と、尋ねられる。 「これが桜の色です。藤原の桜の色です」と、彼女は応える。 後日、中学生のひとりが手紙を寄せる。 「私が一番心に残ったことは、同じ桜でやっても同じ色が出ない、 それで、これが本当の色なんだっていうのがないことです。」 「藤原の桜は黄色です」と言う中学生のことばは、 「本来の花」を想定するのに抵抗を感じるわたしには、微笑ましい。 (『藤原の桜』) 藤原の桜は黄色だという事実の前に、 「自分の思い上がりを打ちのめされたようだった」と書いた彼女は、 1986年に単行本『色と糸と織と』として上梓されたこの本の、 1998年の文庫版『色を奏でる』あとがきに、次のように記す。 長いこと私は「色をいただく」という言葉を使ってきた。 今そのことばに出会うと、「もういい、もうその言葉は済んだ」 という気がしている。(中略) 「いつまで自分をそこにしばりつけているんだ。もっと考えよ、 いただいてばっかりいて、その先どうするんだ」 と自分に言ってやりたい。 七十代半ばにして、己を越えてゆくこの膂力。業の深さ。 ひとりのひとの思索を、年を経て追って行くことの、価値を思う。 膂力=(りょりょく)うでぢから。 膂任=(りょにん)担うこと。また、その力。 膂 = 筋肉の力、ちから、背骨。 志村ふくみ 染織家。滋賀県近江八幡市出身。1924年(大正13年)-
by pippinrose
| 2007-12-05 06:18
| 植物
|
Comments(2)
Commented
by
Junko
at 2007-12-05 08:39
x
ぴぴんさん、こんにちは。今日のお話興味深く読ませていただきました。本をアマゾンに注文します!
sakiさん、はじめまして。「藤原の桜」の話は知りませんでした。 教科書を読んでからずいぶん時間が流れてまた志村ふくみさんを知る機会が訪れるとは思いませんでした。本を読むのが楽しみです。幸せ!
Commented
by
ぴぴん
at 2007-12-05 22:21
x
Junkoさん 『色を奏でる』は、一冊の本として充実した、いい本だと思います。
教科書で出会い、何年も経っての再会というのも、楽しいものです。 昔植えられた種が、長年経って咲くような、心地よさがあるでしょうね。 どうぞ、楽しまれますように!
|
ファン申請 |
||