by pippinrose
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2008年 02月 02日
友人のひとりに、こども時代、バングラデシュで生活していたひとが居る。
ご両親が医師として、海外医療援助を行なっていたのだ。 二十年ほど前、その活動を記録した映画を見、書籍を読んで、 わたしは、彼に、こう感想を述べた。 「赤ん坊が、ビニールシートの上で手当されているのが、 悲惨で見ていられなかった」 彼の返事は、以下のようなものだった。 「あれが悲惨だとは思わない。 ビニールシートがあるおかげで、素早く汚物処理ができる。 無くて汚物にまみれている方が悲惨だ」 知らないというのは、こういうことかと、わたしは思った。 ビニールシートは、現地なりの工夫の結果なのだ。 そこに反応して「悲惨」と言った自分のナイーブさを、わたしは恥じた。 同時に、自分の素直な反応の、限界を感じた。 1993年にニューヨーク・タイム紙に載り、 1994年にピューリッツア賞を受賞した写真、「ハゲワシと少女」。 撮影した写真家、ケビン・カーターを巡る問題を初めて知った当時、 それをどう考えて良いか、わたしはよくわからなかった。 旱魃と内戦による飢餓のスーダンで、 地面にうずくまるこどもをハゲワシが狙っている。 「写真を撮ってないでハゲワシを追い払え」という、 もっともな批判の嵐が起き、受賞後ほどなく写真家は自殺する。 今のわたしなら、批判者にこう言うだろう。 「あんな場面を、また更に悲惨な場面を、 写真家は現地で、あっちにもこっちにも見たんじゃないか。 あなたが “追い払え” と言っている間にも、 別のこどもがハゲワシに喰われているかも知れない。 見たくない現実を見せられて不快かもしれないが、 不快なものを見せた写真家を攻撃するヒマがあったら、 自分がハゲワシを追い払ったらどうか」 ドキュメンタリー映画『ケビン・カーターの死』の中で、 カーターの娘は、批判にさらされた父のことを、こう述べたそうだ。 「わたしには、父があの苦しんでいるこどもで、 その他の世界がハゲワシに見えます」(ぴぴん訳) 写真家がハゲワシになる危険も、 批判者がハゲワシになる危険も、 わたしがハゲワシになる危険もある。 スーダンのハゲワシは、わたしには追い払えないのだから、 せめて、無知に由来する素直さによって、 他者を攻撃するハゲワシにはなりたくない。 また、カメラという道具を手にする者として、 あの光景をフレームに入れた写真家のまなざしと、 食欲で少女を狙うハゲワシのまなざしの違いを、 決定づけるものは何か、意識していたいと思う。 カラスウリ。 体調が戻って、写真が撮れるようになってきた。 スーダンの状況は一向に改善せず、今は「ダルフール紛争」の形を取っている。 地球温暖化に伴う旱魃が、内戦の背景にあるとする指摘もある。 Kevin Carter/ケビン・カーター 1960-94年 南アフリカ共和国人 写真家。
by pippinrose
| 2008-02-02 09:14
| 視覚
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Comments(11)
写真が撮れるようになってきてよかったですね。
写真を撮ることについて、 とても興味深く読ませていただいています。 「ハゲワシと少女」の議論、何もしないで批判するだけの立場は 無責任ですね。 マンサクの花の部分的真実、 「やったね」とにんまりさせられました。
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ぴぴん
at 2008-02-03 14:17
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ミセスサニーさん ありがとうございます。だいぶ持ち直して来ました。
元々、写真集三冊について書くだけで終わるはずだったのですが、 芋づる式に連想が膨らんで、長くなっています。 「めんどくさい話してるなぁ」と思い、切り上げようかと思っていたのですが、 興味を持って読んで下さる方もあると知って、嬉しいです。 無責任でいるのは気楽です。すべてに責任を取ることは不可能ですが、 気楽に攻撃するのは気楽すぎると思います。 マンサク。「ふふふ。やったでしょ?」 ^_^)
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はる
at 2010-01-17 20:03
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初めまして。
ケビン・カーターの写真について調べていると このページにたどりつきましたのでお邪魔します。 確かに、衝撃的な写真かもしれませんが、 「写真を撮ってないでハゲワシを追い払え」と言えたのも ケビン・カーターが写真を撮り、そしてその写真を見ることができたからこそ・・・。 もしかしたら、スーダン国の問題に世界(多くの人)が気づけなかったかもしれない。とも思いました。 ぴぴんさんの意見にも(なるほど)と思い、じっくり見させてもらいました。 一枚の写真に、とても考えさせられますね。 平和になることを願っております。 ぴぴんさんの日記を見れて良かったと思いました(^▽^) ありがとうございました。
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ぴぴん
at 2010-01-18 19:39
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はるさん 初めまして。
>「写真を撮ってないでハゲワシを追い払え」と言えたのも >ケビン・カーターが写真を撮り、そしてその写真を見ることができたからこそ・・・。 おっしゃるとおりですね... そして、知らなかった悲惨を見せられた時、 それを見せられたことに嫌悪を感じたり、 自分の限られた体験で、悲惨を見せたひとを攻撃したりという反応を、 してしまう人は出てしまうものなのですね... 他者を攻撃するのは簡単で、他者を理解するのは難しい。 ネットで様々な他者を見ることは容易になりましたが、 その他者をどう理解し判断するかは、相変わらず個々人の力にかかっています。 「情報のあふれる今、どのように自分の理解力・判断力を磨けばいいのか」 ということを、ケビン・カーターの事件はわたしに考えさせてくれました。 はるさんのコメントで、 このことを課題に思っている自分を、改めて確認できました。 書き込みをしていただけて、うれしかったです。 ありがとうございました。<(_ _)>
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はぁ
at 2012-04-11 13:57
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ちなみに写真を撮ったあとに彼は子どもを助け、近くにいた母親に預けてます
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ぴぴん
at 2012-04-12 08:04
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はぁさん 初めまして。
国連の食料援助の同行取材で、 村の大人たちが食料を受け取るために近くに集まっており、 子どもたちからはしばし目と手が離れていた、という場面だったようですね。 撮影後カーターは鳥を追い払い、子どもは大人たちの方へ行った、 という記述を読んだ記憶があります。 この写真に限らず、情報をどう理解し反応するかという問題は、 震災後の情報とそれらに対する反応でも、再現されているように思います。 コメントありがとうございました。
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かな
at 2013-10-31 14:08
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はじめまして。
学校の授業でケビン・カーターについて調べていたら ここのページを見つけました。 俺がこの話を最初に聞いたときに思ったのは 「なんで助けなかったとか、言えんの?」 でした。 少女1人を助けても、スーダンの問題が解決しない。 そもそも、この写真を見るまで、 何も知らなかったし、知ろうとしなかったのに 偉そうな事言えないだろ って。 別に助けるなとは言わないけど でも、先にやることがあるだろ って。 そんなことを思いました。
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ぴぴん
at 2013-11-01 08:00
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かなさん 初めまして。
学校の授業で取り上げられているのですね。 携帯やスマホで気軽に写真が撮れるようになった今、 苦しみや災いに遭っている人にカメラを向けていいのかというのは、 フォトジャーナリストでなくても直面し得る問いですね。 かなさんの書いてくださったコメントはとても興味深かったです。 「なんでそんなこと言えんの」と疑問に思ったところで、 相手は何でそんなこと言えるのかを知ろうとすると、 自分の世界が広がる、と思いました。 そうして考えてみると、わたしが五年前に書いた 「今のわたしなら、批判者にこう言うだろう」という部分は 批判者が何でそんなことを言えるのかに関心を持たずに、 弱っている相手に襲いかかっているようで、 ハゲワシ的だなと思いました。 ハゲワシになりたくないと書いているのに… 未熟者です。 コメント欄の字数制限にかかってしまいました。続きます。
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ぴぴん
at 2013-11-01 08:06
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かなさん 続きです。
批判者の言うことももっともだ、というところを踏まえて、 「批判者へのセリフ」を考え直してみました。 「ハゲワシに襲われそうなこどもを見ながら、 助けずに写真を撮るだけでは非情です。 彼には他に何ができたでしょう。 ハゲワシに襲われそうなこどもを見ながら、 助けずに議論するだけでは非情です。 私たちには他に何ができるでしょう。」 かなさんがコメントをしてくださったことをきっかけに、 自分の考えを見直すことができました。 どうもありがとうございました。
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かな
at 2013-11-01 09:09
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こちらこそ ありがとうございました。
授業の参考にさせてもらいます。 俺も、ハゲワシにはなりたくありません でも、人間 自分の身が一番かわいいですし 実際に見たことのない、体験したことのないことを 本当の意味で理解することなんて できませんから、 けど、俺は こういうことを理解しようとする努力だけは やめたくないって思ってます。 まだ、何の力も持っていない、ただのガキですが、 自分ができることを探してみます。 びびんさん、ありがとうございました
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ぴぴん
at 2013-11-01 19:20
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かなさん 他者の苦難を手伝うことについて自分に力がなく、
他者の体験を本当に理解することもできないことは、 東日本大震災の後にも、痛いほど感じました。 それでも、できるだけ理解しようとし、 遠い場所の大きな問題には直接関われなくても、 身近で小さなことでもできることをしようと、 わたしも努力しています。 改めて、追伸ありがとうございました。 授業でさらにさまざまな角度から考え、 豊かになりますように。
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